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その14


スーパーの命

 「スーパーが消えた!」「広がる買い物砂漠」タイトルはセンセーショナルだが、なるべくしてなったこと。千里ニュータウンや多摩ニュータウンなどの初期の開発地区や郊外の戸建て宅地開発で生まれたニュータウンで当初からの小規模、中規模スーパーが閉鎖の憂き目にあっていることを日本経済新聞のSunday Nikkeiのスクープ(1998.6.28)として報じている。

 千里ニュータウンが1958年(昭和33年)に建設が始まり、続いて1965年には泉北、多摩、高蔵寺と続いて行くが、当初に入居した世帯主はすでに30〜40の歳を重ねており、当時購入した小規模な2DKや3DKの間取りでは成人した子供との同居は困難で、加えてニュータウン自体が職住近接を念頭に置かないベッドタウンとして計画されたために、職住近接を望み生活にゆとりを持たせたい若い世代は世帯分離し、高齢者が残される形になっている。

 ニュータウンに残された高齢者世帯は大概が戦後の持ち家政策の犠牲者で、資金に余裕がある人や買い換えで資産を増やす裁量のある人はとうに転居してしまっているが、売るに売れない「古くて狭くて設備の悪い」持ち家住宅に何とか住み着いている高齢者が残っている。体力は弱っているのにエレベーターはなく、必然的に買い物もなるべく少なくして、加えて年金に頼る生活だし老人の食は細るためスーパーでの買い物も次第に足が遠のいてしまう。でも、たまさかの旅行や趣味の活動への消費は進んで行い、対外的な活動が多くなると、次第に身近なスーパーでの買い物は少なくならざるを得ない。

 従ってスーパーは消える運命にある。こうした中、コンビニエンスストアが広がりを見せている。大規模なニュータウンではコンビニの誘致が出来ないことから、ニュータウンに隣接して開業が盛んである。特に若い子育て世帯に重宝がられ、共働きで昼間の買い物が困難な世帯には24時間対応の店は便利である。これがスーパーの代わりに近隣に出店していくと、日常的な買い物の補完として有効になると思われるが、現状では規制などがあり、難しい選択なのだろうか。とすれば規制を撤廃すればいいことになる。

 先日、東京都と接する山梨県上野原町に開発されているニユータウン「コモアしおつ」を訪ねてみた。バブル期の住宅地の高騰にめげずに戸建て持ち家を何とか手に入れたいとする人々が戸建て信仰に支えられて、谷底地形の街道筋に迫る山の頂を大規模に造成しニュータウンを造ってしまった。最寄り駅の塩津駅からはエスカレーターと斜行エレベーターでアクセスさせる大規模な開発が話題になり、東京圏からの移住者も多い。残念ながら計画途中でバブル経済が崩壊し、戸建て住宅取得エリアも都心に近づいてきたことでまちづくりが完成しない状況での売れ行き不振に陥ってしまった。バブル崩壊後もなんとか入居を誘導しようと定期借地権住宅の供給や販売価格の調整などの努力が重ねられていることが、新聞に織り込まれるチラシなどでわかる程度で、具体的にまちづくりがどのようになっているかが見えなかったのだ。

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「コモアしおつ」中心商業地区イラスト(広告より)

 国道20号線からニュータウンに連結する導入路を上っていくと、幹線道路沿いの塩津駅周辺の雰囲気とは別世界の緑の多い戸建てのニュータウンが広がっていた。計画的に分譲された住宅群は、折からのガーデニングブームもあってか、色とりどりの花々も咲く豊かな戸建てライフが見え隠れした。駅正面にはスーパーもあり、日常的な買い物は全てここで賄えるようだが、他に競合する店舗も見あたらず、必ずしも低価格で提供されるとは限らないし、品数も限りがあるだろうし、いささかの不自由を感じつつタウンウォッチングの為に車を走らせた。

周辺に市街地としての広がりもなく、全くの別世界に計画されたニュータウンであるだけに、周囲に対抗する商圏を持たないことが、選択の余地のない生活環境を生んでいる。何時かは必ず到来する30年後のニュータウンを想像したとき、この街はどうなっているのかを考えると、余りにも「戸建て信仰」の反動が大きすぎるのではないかと、当然起こりうる将来の高齢化と若者の流出を懸念してしまった。時代の流れは、都心居住と情報化による職住近接に動いている。郊外の住宅地としての別天地でもある「コモアしおつ」は新たな時代に向けたもう一つの選択を迫られているようにも思えた。


commore2.jpg  人の生活ニーズは時代により大きく変化する。従って生活環境も変貌し、時代のニーズにより、新たな顔に変化していく必然性を持っている。小売店主導型の商店街から食料品や日用品を扱うスーパー文化が生まれ、さらにアミューズメント性を高めた大規模郊外店舗が発生すると共に、きめ細かなサービスをもっとうとするコンビニエンスストアが全国に広がっている。さらに在宅配達サービスや移動式の店舗展開も多様なサービスを提供するようになっている。

 商業形態の変遷は時代のニーズに対して対応する社会的な反応であり、社会環境の必然的な変化の流れであり、必要が生み出した結果でもある。こうした状況の中で、既成のシステムを守ろうとする各種の規制や抑制は、既存のシステムを急速な社会変化に対応させる為の緩衝剤としての効果はあるものの、人々のニーズとは反対の結果を生むことにもなりかねない。こうした背景を十分考慮した上で、良好な社会を形成するためには、規制のない自由な商業活動が、真に人々のニーズに合う生活を支えるものであることを再認識して、既成のニュータウンの中の土地利用や商業活動の規制などを撤廃する努力が必要である。

(秋元孝夫)


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